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ミーハーの身(一)

2016年 4月 20日16:39 編集者:兪静斐

  作者:銭 暁波

 この頃、上海で話題になっているのはいろいろな「長蛇の列」のようである。

 上海ナンパーの車両ナンバープレートを手に入れるのは至難の業だというのは周知の事実。オークションにかけられ、購入者が競り合ってそれを落とすのである。値段は年毎にアップされ、今では150万円弱とほぼ新車一台分の価格となっている。それでも競りに参加したい若い人たちが後立たない。しかも、最近交通規制が厳しくなり、非上海ナンバーに対する高架道路の乗り入れ制限時間が延長されるため、上海ナンバーが以前にも増して一層貴重となった。しかし、競りにはだれでも参加できるというわけではなく、参加するためにまず申請資格が必要である。その申請資格もお金を出して買わなければならない。というわけで、申請資格を購入するため、先日、並んで三時間ほどかかる「長蛇の列」ができたという。

 地下鉄や電車などの交通手段は非常に便利になったとはいえ、大都市で生活するうえでは車を持ってれば身に余る栄光を振りかざせるという「発展途上国民」の心理は依然として層があつい。渋滞の長蛇の列に加わっていく資格を入手するために長蛇の列に並ぶ人々の苦心は、まあ、一応汲み取ることができるとしよう。

 毎年四月のはじめは中国人にとって先祖の霊を供養する「清明の節」である。日本人の八月半ばの「お盆」と同じように、帰省やお墓参りなどせわしくなる時期である。それに合わせて上海あたりの江南地域ではその時期になると決まった伝統的な食べ物が売り出される。「青団」と呼ばれる緑色のもち米の生地であんこを包んだ大福のような、いわば「ヨモギ団子」である。

 しかし、中国全土に力強く吹き荒れたイノベーションの狂風に当たったか、この伝統なる食べ物にも新たな味を加えようと、老舗の菓子メーカーが中身をあんこの代わりに「蛋黄肉松」(塩漬け卵黄と豚肉そぼろ)にして新発売した。すると、これを一口食べようと発売当日に老舗菓子屋さんの周りに「長蛇の列」ができ、なんでも並んで六時間もかかってやっと手に入ったという。今度は若い人たちではなく、中高年ファンが圧倒的に多かったようであった。

 これらのニュースを聞いて、長いこと使っていなかった一つの日本語が頭に浮かんできた。「ミーハー」である。ミーハーとは流行に左右されやすい人たちのことを指すことばで、いまではほとんど死語に近い状態になっているかもしれない。

 小生は決して軽蔑の目線で「長蛇の列」に加えようとしている人たちを見ているのではなく、むしろ三時間や六時間をじっと我慢しながら秩序よく並んでいる人たちを尊敬せずにはいられないと思っている。車ナンバーのほしさには生活の利便性を追求する切実さが刻まれていて、新しい味覚を試したいというのも生活への積極的な気持ちが浸していて、微笑ましいのである。どちらも蔑(さげす)まれることはないはずである。

 この二つの「長蛇の列」には何らかのわけがあって一応理解はできなくはないが、最近の上海にはもう一本の長蛇の列があった。それが正真正銘のミーハーであるかもしれない。

 その話は、また次回にしようねえ。