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日本推理小説の祖(二)

2016年 3月 11日9:44 編集者:兪静斐

  作者:銭暁波

 前回の続きである。

 エドガー·アラン·ポーを代表とする西洋の推理作家のほかに、江戸川乱歩の推理小説は意外な人から影響を受けていた。四回もノーベル文学賞にノミネートされた(58年、60年、61年、62年)日本を代表する文豪の谷崎潤一郎である。

 『春琴抄』『細雪』『陰翳礼讃』などの名作で知られる日本耽美主義文学の巨匠、谷崎潤一郎がなぜ推理作家の江戸川乱歩に影響をあたえたか。一見たいへん不思議に思われるかもしれない。実は、谷崎潤一郎にはその長い創作期において、推理小説のような作品を集中的に著した時期があった。

 一部の作品を挙げると、『前科者』(1918年)『柳湯の事件』(1918年)『人面疽』(1918年)『呪われた戯曲』(1919年)『途上』(1919年)『ある調書の一節』(1921年)『ある罪の動機』(1922年)などである。これらの小説は犯罪や謎解きを基本要素としているので、推理小説として読んでも全く差し支えないが、谷崎潤一郎自身はこういった作品を推理ものとして語ることがあまり好まなかったのである。

 とはいうものの、上記の作品には推理小説として傑作といわざるをえないものが多い。小生が好きな作品を一つ取り上げるとすれば、『途上』になろうか。こんな内容である。

 ある会社員が帰り道に私立探偵を名乗る見知らぬ男に突然呼びとめられ、妻の死の顚末を問われる。たたみかけるようにその死を執拗に糾弾する探偵と、追い込まれる会社員の恐怖の心理を絶妙に描いたこの作品は、日本の探偵小説の濫觴とまでいわれている。

 小説の全編は会話で成り立っている。探偵と会社員との間の会話によって、さまざまな犯罪の可能性や現場の雰囲気が再現され、物語の構造の巧妙さと言葉による緊張感がまさに絶妙である。江戸川乱歩は『途上』を、「探偵小説に一つの時代を画するもの」「これが日本の探偵小説だといって外国人に誇り得るもの」と絶賛したのであった。

 黒岩涙香が日本推理小説の草分けであるというならば、谷崎潤一郎は中興の祖といっても過言ではない。さらに江戸川乱歩や横溝正史など推理作家たちの努力によって、戦前の日本推理小説は絢爛と光り輝き、多彩なる世界を織り成した。

 今日、東野圭吾を代表とする人気作家はその伝統である文学ジャンルを受け継ぎ、さらに発展を遂げさせている。日本推理小説のファンであるならば、古いとはいわず、たまには戦前のものにも目を向け、大いに楽しんでもらいたい。(了)

 日本推理小説の祖(一)